傘日和/アンテ
 

地面に衝突する
乾いた音が遅れて響く

落下しはじめたら最後
人にはなにもできない
だからきっと
落下する前に考えるのだろう
生きつづけることと
落下することと
どちらかひとつを選択するために

傘を開く
骨はどう見ても脆弱で
布材は今にも破れそうだ
うまく風に乗ると
隣町のかなたまで
飛んでいく傘もある
風がおさまるまえに放って
遠ざかるのを見送ったら
屋上のドアに鍵をかけて
家に帰ったら
またいつもどおり

今日は
絶好の傘日和なのに
両手で柄を握りしめたまま
指が開かない

爪先の向こう側
これ以上先はない
傘の骨がぎしぎしとしなる
目を閉じて
ひときわ強い風が
ごぉ と
傘を持ち上げて
身体が軽くなって

意志の力だと思いたい
選ぶこと
踏み出すこと
あるいは
思いとどまること

再び地面を感じる
風はどこかへ行ってしまった
傘を閉じて
大きく息をして
ゆっくりと目を開ける
ここはどこだろう
陽射しがまぶしい

空が遠い

家へ帰ろう



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