ある少女の独白/杉菜 晃
 
一人の青年が駅ビルの柱に背をもたせて坐り込み
ギターを掻き鳴らして歌っているのを見たとき
私は自分の誕生日を思い出していた
今日は私の十八歳の誕生日だったんだわ
寒い日で 夜も晩くなっていたから
青年の傍によって
歌を聴く者など一人もいなかった
それであればよけい
私は青年が自分のために
歌ってくれているような気がして 
通り過ぎることができなくなったの
足が縛り付けられたようになり 
青年の前に腰を屈めたの
彼は毛布を身体に巻いて目を瞑り 
ギターを横抱きにして声を張り上げている
歌の文句など 分からないけれど 
人の世の無常とか
それに伴う愛の挫折 
愛を失
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