断崖(黒薔薇の微笑 其の一)/恋月 ぴの
おんなにとっての
それは囚われ
深遠の亀裂より鉄鎖を垂らし
おんなは生きる
獣は獣
下履きから覗かせる鉄鎖を
見も知らぬ男に掴まれたとしたら
それが悲恋物語の序章
秋の日の静寂に我が身を投じ
そんな男の理不尽な仕打ちに焦がれる
(こんなにだなんて辱めないで
いつまでも果てしなく囚われの身
(あい あい あい
(愛を恵んでください
それがおんな
男を誘う仕草で幸せの深さをはかり
息が詰まりそうなまで
胎内奥深く放たれた野卑な仕業に
身ごもる破滅への甘美な予兆
(それは泥濘の上げる産声にも似て
鉄鎖に絡みつく蒼い陰の疼きに
濡れた唇を緋色の口紅で縁取れば
甘噛みの切ない誘惑に戸惑い
(ああ しどとぬれそぼってしまうわ
おんなはひとり風の舞う断崖に立つ
[グループ]
戻る 編 削 Point(23)