夜を夢想する海の協奏/前田ふむふむ
 


あなたの濡れた胸に、冷たい手をあてがえば――、

海のかなしい疼きが聞こえてくる。
海のさけびが硬直する闇を駆け抜ける。
夜の海は、激しく傾き、仄かに灯りが燃える街並を沈めながら、

あなたは、美しく――、

昇華する。
   
      4 黎明

      温度計を冷ます風が鳴る。
ゆったりと浜辺の砂を握り、
その手触りが、もえる赤い血のなかに滲んでゆく。
わたしの吐き出した言葉は、失われる沈黙に寄り添い、
溶けてゆく。
溶けたものは、街に、夥しい夜の色彩をくばり、
更に、純度を深めて、
まどろむ秋は、薫り立つ風俗に、染まる。

わたしの掌から、一艘の船が、ふたたび、港を出る。
眠る廃船に、看取られながら、
黒い海原の水面を舐めるように、
新しいひかりを焚いて。


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