捨て金魚/嘉村奈緒
捨て金魚をした
近所に川がなかったので
人の多い駅前に捨ててみた
金魚だってわかってもらうために
「大学と手毬です 可愛がってください」とでっかく書いた
気になって一日に何回も駅にいった
箱からはみ出た尾っぽが
たまにピクピク動いているのを見る度に安心した
良かった、まだ(捨てられて)いるって
そうか、これが安心というものなんだって
雨が降った日なんかは慌てて見にいった
金魚が喜んで逃げてしまったらどうしようって
でも尾っぽがあった
動いていなかったし箱の字は滲んでしまっていた
それでもそこにいるとわかったから
家に帰った
空っぽの水槽が家にはある
隅
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