木々の雨 他/青色銀河団
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夜明の書簡(友へ)
ぼくらはかつて
遠ざかる気層であった
果てのない蒼い夜に灯る
淡い光であった
ぼくらの指先は
震える幼き稲妻
すべての吐息は
透明な表象となった
ぼくらはかつて
言葉以前の言葉
記憶以前の記憶
孤独以前の孤独に住み
世界の起源に
最も親しい場所にいた
今ははなればなれに
なっているおまえ
いまでもおまえは
あの蒼い夜を
生きているか
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オランダ坂
夏の濁ったにおいに爪先立ち
砕け散った星々の欠片のような
宿命論として小さきものの
俺がいて
夕刻のオランダ坂には
永遠に落下することのない
光の粒子の螺子があって
それは緩やかに巻き戻されていて
俺は何人もいて
透明な俺は何人もいて
俺は幾重にも重なりながら
かろうじて
ひとつの束となって
透明な俺の影を
細く長く伸ばすのだ
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