金魚/深月アヤ
 
訪れる人の無い部屋の片隅
透明なガラス鉢の中の

    私は金魚

一日一度 あなたの声を待っている
    「おはよう」

そうしてドアを出て行く音がすると
私の長い一日が始まる

    部屋に静寂が満ちている

時には冬の気まぐれな陽が
私の世界を暖めたり
真紅の鱗を輝かせたりする

    そんな時 私は思う

いないあなたに今の私を見せたいと


夕暮れの話し声
鳥が作る一瞬の影
落ちる陽が連れて来る足音

胸騒ぎの時間
     
     あなたは帰ってくるのだろうか


闇が部屋を覆う頃
ガチャガチャと鍵の開く音

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