或る平和の情景/吉田ぐんじょう
 
受験を控えた少女が
堪えきれずに道端で
脱皮を始めた

その横をダックス・フントが通る
かれは短足を気にして
朝夕ぶら下がり健康器を
使っているのだけど
伸びてゆくのはもちろん
足じゃなくて胴だ
可哀相だから誰も言わないけど

公園には奥さんがたむろしている
子供が砂場で殺し合いをしているのに
わんぱくが一番よ
って
微笑みながら傍観している

徘徊している老人が
木の枝を折って食べはじめた

何だか笑い出したい気持ちになる
風に吹かれて
抜け殻が宙を舞う
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