赤い川/はらだまさる
 

男の髪の毛を片手で掴みもう一方の拳で何度も激しく顔面を打ちつける。
男の抵抗は見ているこっちが苛々するほど弱々しいもので
その光景を私達は凝視出来ない。

暗闇に侵食された空に鳥が啼いている。
銀色の雨が黄色の岩に弾けて
濁った川に吸い込まれて流れてゆく。
女がその拳を止めることはない。

女の拳は真っ赤に染まっては雨に流れ落ち
ぐったりとした男の顔からは赤黒いものが溢れている。
そしてそれらも雨と一緒に下へ下へ
ゆっくりと流れ落ちてゆく。

私達は最初、それを争いだと思って
この場所から眺めていたが
よくよく眺めてみてそれが間違いである事に気が付いた。
女は涙を流して泣いていた。

もう立つ事さえ出来なくなった男を
女はしっかりと抱きかかえて
私達が見たことも経験したこともないような
優しい接吻をした。

更に勢いを増した銀色の雨が降っている。
水は下へ下へと流れてゆく。
水は依然、私達に何の興味も示さないけれど
私達は今も何かを探している。







戻る   Point(3)