金木犀/
 
ずつ、
いちびょうずつ


ひからびた街が
金木犀のぶあつい匂いで
そおと浮きあがる

豆腐屋の猫が鳴いてる
ふゆの毛に変わりはじめた
まばらにあかちゃけた肢体を
ふくらませたり しぼませたり しながら
おなかの底から 鳴いてる



角砂糖を食べる。潜り込んだまちがいを、
溶かすように、あまい、くだける音をたて
て溶ける、角砂糖を食べる。砂糖にまみれ
た彼の指は、なにかを探している。くまな
く確かめるように、まちがいをゆるすよう
に、それから、とうとつに奪うように。彼
の指はなにかを探し出そうとする。やせた
女のひとが、布団に横たわるわたし、の、
ひだりがわ、を、見ている。その指は祈っ
ている。窓の向こう側で、猫が、鳴いてる。
おなか、の、底、から。


    (みなみからさらさらとあめのおと)



触れた
金木犀が
おれんじいろのぶあつい匂いをかおらせて
あかるい朝のじめんにやっと
溶けた
彼女は左眼で泣きながら
悲しい、と言った






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