僕たちはあの頃にいない/たりぽん(大理 奔)
ラジオで流れたちょっと古い歌に
思い出す学校の教室
見上げると野焼きの煙
校庭の空にあいつはいない
工場跡がショッピングセンターにかわる
空を割っていた煙突が消えて
秋の花たちが吹かれている帰り道
落書きに君の名前はない
居酒屋ではオヤジどもが
あの頃はよかったと
酒臭い息といっしょにはき出すけど
そこには彼らだっていない
いつも、いつも
ないがしろにされていく
僕たちの名前
僕たちの体温
中途半端に残されていく
轍(わだち)のような苦しさ
淵のような静けさ
語り捨てられていく
あの頃
あの頃
数日だけ書いて
捨てることもできず
段ボール箱に堆積した
日記の束の
白紙のページ
昔、君と泣いた映画を
小さなブラウン管に映し出して
涙のぬくもりを探そうとしても
いない
僕たちはあの頃にいない
僕たちは、いない
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