遠い眺望/前田ふむふむ
 
交じり合わせることなく、
茫漠とした広野の殉教の煙を吸い込んで――。
子供たちは、ほそい春の波紋を癒しながら、
聖地に背を向けて、歩みつづける。
自らの赤い血を守るために。
      
    ・・・・・
 饒舌な海鳴りが、砂塵の原野で響く。
     遠い眺望が、短調の記憶に佇む。
        聡明な空は鳥たちのために浮んでいる。

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 滔々と溢れる、懐かしい空を見上げると、
    帰国の手土産に、差し出した夢を、
      やわらかい雲が、大口をあけて啄ばんでゆく。
    
   日本橋から銀座へ、ゆるい曲線の道路が、
     ふたたび、
   老紳士の杖のさきに、ひかれる。
   滑るようにすぎる、
   汗を弾いて、笑い合う女子高生に導かれて、
   穏やかな陽だまりが、穴を開けて、
   新しい追憶を、語りだす。

      その可愛らしい涼しさに、
  おもわず、遠藤周作は、くしゃみをする。




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