遠い眺望/前田ふむふむ
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ゴルゴダの丘の受難が、針のように、
人々の困惑の眼を包んで、
砂塵の闇に、厳かに、消えてから、
すべてを知った空は、
瞬きもせずに、顔色を変えることなく、
鮮やかな蜃気楼の夢のなかに沈んだ。
ひかるみずの洗礼を享けて、信徒の経験を旅する、
遠藤周作は、茶色の肌を晒して、
みずのない、不毛の隆起を素描する、
乾いた聖地の眺望を嫌った。
それは、妙なる神学の音階に、
低音の疑いを、差し挟んだのではなく、
よわい胸を透過して、気が失せるほど殺伐とした、
荒野の唇にみずを欲したからだ。
彼の刹那を、ガンジス河の濡れた河岸で、
雨に酔
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