遠い音/未有花
冷たい風が吹く
誰もいないススキ野原で
遠い音を聞いていた
はるか彼方から聞こえる
俗界からのメッセージは
幼い僕の心をとらえた
遠くで車が行きかう音
汽車の行く音
夕方のチャイム
こうして耳をすましていると
すべてが別世界のように思われる
かすかなざわめきの中で
気づけばいつもひとりきりだった
あたりが暗くなって
空が薔薇色に燃えるまで
遠い音を聞いていた
このまま夕闇にまぎれて
はるかな世界へ行けるような
そんな幻さえ見えた
遠くで犬がほえる声
飛行機の飛ぶ音
工場のサイレン
僕はこわくなってかけだせば
すべてが闇に包まれていた
遠ざかるざわめきの中で
気づけばいつもひとりきりだった
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