してやれることはなにもないので/yaka
 

 たとえばおまえがいっちょまえに
 人生の壁などにぶち当たったとき
 母親なんて無力なもので
 ああでもないこうでもないと気をもみながら
 弁当のおかずを一品増やしてやれるのが関の山
 それはまるで、泳げもしないのに海に潜り
 四苦八苦しながらなんとか
 小魚を一匹捕ってくるのに似ている
 おまえは陸(おか)で闘っているというのに

 詰まるところわたしには
 あげられるものはなにもないので
 あるだけの時間をつかい
 あるだけのココロをつかう
 捨てることなら出来るけれど
 捨てきれないでいた、おんなのゆめなどは

 してやれることはなにもないくせに
 心配しながら皺ばかり増やしている
 叱りながら白髪ばかり増やしている
 どれも空回りなのは知っている

 無力な母親がすることといえば
 ただいつまでも見守るだけ
 今日、この道の曲がり角まで
 明日、扉の向こう側で
 そしていつか、遠い空の下で
 見守りつづけるだけ


                2006.10.29
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