猫の伝言/佐羽美乃利
 
あたしはその昔
シェヘラザードという名の娘でした

アラブの乱暴な王様に
命がけで気を張って
千と一夜の面白話を
語り続けてくたびれて

猫に生まれ変わった現世
このアラベスク模様に彩られた街で
ひっそりと暮らしています

赤く染まった空の下
瓦礫のかげで毛づくろいしながら
眺めています

邪悪な人間たちが
今日も良からぬことを企み
風と水と大地を濁らせ
自滅して行くのを

人間は
猫ほど賢くないので
飽きもせず千の千倍より多く
浅はかな仕打ちを繰り返すのです

自分が他人にしたことが
いずれは自分に返って来るのも知らず
驕り高ぶる愚者も悪魔も
最後は宇宙の塵になることすら気づかずに

砂に血が混じる刻
子供たちもあたしも消されるでしょう

でも次の世も
さらにまた次の世も
よく光る眼と鋭敏な耳を持つ
猫でいられれば幸せです

人間になど
生まれ変わる気は
ありません
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