ユリネプララの人/青山スイ
ラジオをつけると
聞いたことのある曲が流れていて
愛とか希望とか自由とか
そういったことを叫んでいた
壁に掛けてある絵は
何の絵であるのか解らなかった
右下の隅に小さな文字で
ユリネプララ、と書いてあった
あの子は赤いスクーターに乗っていて
雨の日が傘を差すのが好きで
夢を人前で語るのが苦手で
儚いものを大切にしていた
思い出せることは断片的で
確実にピースの数が足りなかった
なんとか映像にしてみたが
その映像には顔と名前がなかった
あの子が僕にくれたモノは
ユリネプララの絵と
少しばかりの記憶だった
サヨナラは言わなかった
窓の隙間から
柔らかな風が通り抜け
カーテンは何も言わず
心地よさそうに揺れた
ラジオからは
あの子が好きだった曲が流れていて
愛とか希望とか自由とか
そういったことを叫んでいた
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