白い自転車(オラシオ・フェレール「白い自転車」より)/角田寿星
 

みんな
まだ覚えているかい?
白い自転車に乗った少年の神様を
くすんだベレー帽を耳までかぶって
よくとおる口笛でポルカを吹いていた
あの痩せっぽちだよ

少年の時代がかった白い自転車が
大通りを 商店街を 路地の津々浦々を
車輪を軋(きし)ませて走っていった
この町の誰もが少年を見かけた
少年の自転車が通ったあとには
彗星のしっぽのような白い光がベール状に広がり
懐かしいポルカの旋律がいつまでも残った
そしてこの町の誰もがその光を浴びたんだ

その瞬間から
町の小さな揉め事は解決し車の中で悪態をつく人はいなくなった
いじめられっ子は友達と楽しく遊び 寝たきり
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