さくらはなぜさくの/
 

けれども
おまえの為に
こんな時期に
桜は咲いてくれないのです

おまえがその窓から手を伸ばしたところで
あの薄桃色の花弁には
触れることはできないのです


なぜさくらはさくの
おまえは聞くけれど

やはりそれはおまえの為ではないのです
おまえの為に咲くのではないのです




おまえにいつもこっそりと飴玉をくれる
おまえのおじいちゃんも
おまえの髪を可愛く括ってくれる
少し年上のおまえの従姉妹も

そして
いつも優しくしっかりとおまえを抱き上げる
おまえの母も


やはりおまえの為だけには生きてはいないのです




でも
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