さくらはなぜさくの/十
けれども
おまえの為に
こんな時期に
桜は咲いてくれないのです
おまえがその窓から手を伸ばしたところで
あの薄桃色の花弁には
触れることはできないのです
なぜさくらはさくの
おまえは聞くけれど
やはりそれはおまえの為ではないのです
おまえの為に咲くのではないのです
おまえにいつもこっそりと飴玉をくれる
おまえのおじいちゃんも
おまえの髪を可愛く括ってくれる
少し年上のおまえの従姉妹も
そして
いつも優しくしっかりとおまえを抱き上げる
おまえの母も
やはりおまえの為だけには生きてはいないのです
でも
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