白い旗 夏の終はりの海岸線/杉菜 晃
げる白い旗が翻つてゐる
死の海岸に
ひとり雄々しく
はためいてゐる白い旗
いや はばたく大いなる白き蝶
紋白蝶は
その白旗に向かつて
せつぱつまつた思ひで飛びつづける
それまで
あの青い海原に迷ひ込んではならない
海鳴りは
悪魔の咆哮としか聞けない
白い旗に辿り着くと
あまりの大きさに
紋白蝶は目を回して取り縋つた
それからは
身動き一つしなかつた
翩翻(へんぽん)とひるがへる
大いなる白旗を
父とみたものか
母とみたものか
はたまた
紋白蝶の故郷と思ひこんだものか
ぢつとしがみついて
強い風がきても
飛沫が降りかかつても
離れなかつた
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