予報/AKiHiCo
 
器に水を湛えたけれど
罅の隙間から零れ落ちてゆく
いくら注いでも満たされないままで
床に指を腕を伝って溜りを作れば
そこに逆さまの僕が映る

明日は雨だと予報が告げていた
傘を持って出掛けるようにと

皆が置き去ってきた思い出を
僕はまだこの箱に仕舞っている
まだ形があるのに捨てる事など出来ない
蓋を開ければ煌く粉を撒き散らして
僕に幻影を見せてくれる

今宵は満月のようだ
雲ひとつない空の底は深い

カーテンが隙間風で微かに揺れて
床に美しい波を描き出す
僕の影がひとつだけ伸びて孤独
溜りに映っているのは紛れもなく僕なのに
どうしてあんなに翳りなく微笑めるのだろう

こんなに澄んだ色の空なのに
明日は本当に雨が降るのだろうか

些細な一言で僕は傷付いて
笑い方を忘れてしまった
罅割れた器に文句も言えず
思いを縛り付けられてしまう
傘は必要ないだろう
濡れて歩けばいいだけ

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