イノシシが知事公邸の裏庭を駆け回る/あおば
舌なめずりしている猫
毛繕いをして
なめすぎて唾液が足りない
それだけで
とくになにも
難しいことは
なにも考えていないのかな
一瞬、
野獣の顔を見せてから
ぷいと横を向いて出ていった
その、
男のような毅然とした態度に
怠け者の僕は
現実の厳しさを見せつけられて
無性に腹が立ち
スリッパを投げつけようとして
思いとどまった
猫は立ち止まってこちらを振り向いて
にこっと笑ったようなふりをして
小さな声で
にゃーと鳴いた
野獣の姿は消えて
サバンナの景色も消えて
其処には見慣れた
座布団が畳まれていて
その上に週刊誌が載っていて
通りがかる仔猫を
不意打ちしようとしているようにも見えた
今日も、
猫踏んじゃったと言いながら
調子が外れたピアノが通る
狭い我が家の運動会は
イノシシが
知事公邸の
裏庭を
重たいピアノもなんのその
ドシドシと駆け回り
平気な顔で演奏中の
ピアニストのお姉さん
１オクターブの麗しさ
鍵盤の手も踊ります
戻る 編 削 Point(4)