silent moon/いとう
然として存在しているのだ
フロアの前に突っ立って
踊っている人を見つめている彼女の肩を叩いてチケットを渡す
あらためて言うまでもないのだけれど
クラブというのは大音量で音を流しているので
耳元で大声を出さないと会話が成立しない
だから自然と言葉を使わずにコミュニケーションをとるようになる
クラブにいるとき僕たちは
彼女の住んでいる世界とよく似た場所に佇(たたず)んでいるのかもしれない
あるいは
彼女の住んでいる世界にほんの少し接近しているだけなのかもしれない
チケットを受け取った彼女は
そのままカウンターには行かずにフロアに歩いて
手首と膝でリズムを刻み始めたかと
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