silent moon/いとう
そのころ、と言っても今でもそうなんだけど
僕の遊ぶベースは六本木で
ヒマがあるといつも
終電でやってきて始発で帰る日々を送っていて
仕事の知り合いよりもこの街の知り合いのほうが多いという
おそらくは恵まれた毎日だったと思う
特定の彼女はいなかったけど遊ぶ相手には困らなくて
この街に来れば必ず誰かを見かけたけれど
彼女を見かけたのはその日が初めてだった
日比谷線六本木駅の出口のすぐそばにある明治屋の前
いつもは六本木交差点に向かって歩き出すのに
その夜立ち止まったのは彼女がそこにいたから
なんて彼女のせいにしてはいけない
簡単に言えば
彼女がとてもきれいだ
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