611号室への招待状/塔野夏子
るコロスたちのあいだに
幾本も灰色の虹が架かっていた
鈍色の流動体はところどころ少しずつ固まりつつある
私は招待状をゆっくりと破り捨てた
所詮応じられない招きだ
そのことは使者の使者も
何処かで様子を窺っていたに違いない使者も
その元々の送り手も
よく承知している筈だ
破り捨てた招待状は空を舞い
やがて固まりつつある鈍色の流動体へ
吸い込まれていった
最後の一片が吸い込まれると
昨日は其処には無かった窓が
すっと消え失せた
とたんに
部屋にはコロスの震えるような歌声が満ちた
それはとても美しく響いたが
何を歌っているのかは やはり聴きとれなかった
私はそれを長く聴くことなく
部屋を立ち去った
私が閉めたドアもまた
私が路上に降り立つ頃には
きっと消え失せているだろう
「コロス」:古ギリシャ演劇の歌舞団
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