611号室への招待状/塔野夏子
昨日は其処には無かった窓から
招待状を携えて
使者の使者があらわれた
見おろすと路上はすっかり鈍色(にびいろ)の流動体と化していて
あちこちのビルの歪んだ非常階段に
コロスが点在している
何を歌っているのかは鈍色のざわめきに紛れて
よく聴きとれない
それらのことを私は昨日其処には無かった窓から
確認すると
無言で招待状を受け取った
使者の使者も無言で立ち去った
そのときその背中に翼があるのに気づいたが
両方ともすっかり泥水で汚れていた
かまわないのだろう
どうせたぶんあれは飛ぶための翼ではない
昨日は其処には無かった窓から
もう一度外を見やると
点在するコ
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