はてしなの響き 【音編】/−波眠−
 



一年で一度生と死が出会う場所。
この日だけはどんな遠くにいても帰ってくる。
人が心ゆくまで音を発揮することが許される日だから。


鮮やかな藍染の浴衣からのぞく皺だらけの手も、
臨時に設置された灯の手を借りて
いつになく艶を取り戻したかのように見える。素敵な錯覚。


歴史がうつることが生きざまなのだと
死んでいく人はみな教えてくれる。
だとしたら僕はどこか生ききれてないのではないかと
問いたくなるときがあった。こんな暮らしをしていると。
やがていなくなる人に尋ねることはできないと思うと、
自問することそのものもできないのかもしれないけれど。


どうか気をつけて行ってらっしゃい。

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