音と言葉/吉田ぐんじょう
 


雨のような音がしていた
始終ずっと
雨のような音がしていた

よくよく考えてみると
それは雨の音ではなくて
誰かの足音だったのかもしれない
雨の音は段々近づいてきて
うちの玄関の前で止まった


留守番電話が
三件溜まっていたので
確認したら
全て無言電話だった
さー
というノイズに混じって
温かい呼吸の音が聴こえた
きっと言葉を知らないんだろう
野生動物と
知り合いになった覚えは無いのだが


一度だけでも
わかってよ
と言いたかった
厭な臭いのする言葉だとは
知っていたけれど

なんとなく独りで
わかってよ
と呟いてみたら
ウエハースみたいに軽くて
だから
苦笑しながら
握りつぶした



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