そして、いつか猫になる/佐野権太
 
  冷たい雨が染み込んでゆく苔(こけ)の
  やさしい沈黙に
  身体を重ねたくなる夜は

  窓ガラスに青いセロファンを貼りつけて
  閉じ込めた気泡の膨らみを
  指先でなぞってみる

    いつか出合ったムラサキシジミは
    はらひらと水生の葉に宿り
    青いまばたきを、そっと吐息に隠した

  何もいいことがなかった夜は
  柔らかい羊皮紙を
  広げたり、畳んだりしながら
  蒸留されてゆく雫の隙間に
  ひっそりまどろんでいる

  朝の音色を見つけると
  低い姿勢で飛びかかる
  ふりをして
  大きなあくび

  こうして、ひとたまの猫が
  生まれるのです

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