とっても出せやしない手紙/松嶋慶子
ガラスに映る私は
遠い日のあなたそっくりで
げっそりと、疲れ方までそっくりで
慌てて背を正しても、微笑んでみても
その仕草までもがそっくりで
かあさん、げんきですか?
その頃のあなたは、
まだ恋をしたりしてましたか?
私はもう忘れてしまいました
恋がどんなんだったかなんて
なぜかそんなことを考えたりします
かあさん、げんきですか?
人間って
じたばたしていても結局こうやって
年食っていくんだな
どうせならもっとどんと構えて
自分をごまかさないでもいいわたくしになって
かあさん、私はげんきです
欲張りすぎていたかもしれません
みっともなくがつがつしすぎて
一つの荷物しか抱えられないくせに
いくつもの荷物をほしがって
捨てる覚悟が出来ません
かあさん、
かあさん、
30年後の私は、あなたみたいではないかもしれない
そのころ、きっとかあさんはいなくて
かあさん
かあさん?
いくつになっても
あなたの子宮が恋しいバカ娘です
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