深夜特急/yuma
 
古臭い木と石炭の混じるにおい。
歩けば目に入るのは煉瓦模様。遠くに聳えるステンドグラス。
そして、お目当てのディーゼル車。
眼前のディーゼルは復刻版はおろか養殖などでは決してない100%総天然。
喜びもひとしお。
僕は一人、嬉しさを噛締める。
出発の鐘の音を聞き逃すまいと耳を四六時中欹てていたけれど
人ごみの喧騒などよりも、よほど胸の高鳴りの方がうるさかった。
車掌さんがやってきて、切符を拝見。と営業スマイル。
慌てて拳を広げるといつのまにか潜り込んでいたくしゃくしゃの紙切れが一枚。
おずおずと見あげると、お互いの苦笑が漏れた。

狭い通路を歩いていると、僕の大荷物はよく取っ手に引っ掛かった。
壁に掛かるのは真鍮色に書かれた素っ気無い4字。
三等客室。僕の精一杯の背伸びだ。
部屋に入る前にコーヒー売りのお姉さんから
苦味と酸味とかっこよさが入り混じるコーヒーを貰って、僕はカップにキスをする。
ドアノブを握ろうとした手から零れ落ちたくしゃくしゃの切符の捺印には
日付の代わりに初心が書いてあった。

そう、瞼を閉じれば今も闇夜をかける深夜特急

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