鳴夜行/木立 悟
 



さまざまなかたちの痛みが
頭の左すみにころがり
右目のまわりの暗がりには
花に似た背のかげろうがいる


すいと平行に引かれた線の
変わりつづける永ささえ
なにげないものにさえぎられ
手のひらに沈む文字になる


左を聴けば聞こえぬ右の
かすかな水の流れに向くとき
干からびてゆく灯下の蜘蛛を
助けたわけを光に言うとき


頭が何かとすれちがうたび
口のなかに生まれくる砂
音はこぼれ 坂道をすべり
道ゆくものの足もとを照らす


響き 緑を昇る影
打つ手打つ手に降りそそぐ色
光はにじむ葉のひとつ
かざす手のひらをすぎる羽


傾くほうへ鳴る夜に
屋根をゆく音 流れ去る音
空へ集まる水の音
蒼に灰にまたたいてゆく


右目の曇りに明るさが増し
小指ひとつで倒れる鏡
雨を見つめる木陰の瞳
見知らぬ夜の黄緑を抱く


燃されるものの声は飛び
月に染まり 落ちてくる
蝋の火のそば 揺れる髪
曇のはざまを聴いている
道ゆくものを聴いている









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