さんぶん/秋/atsuchan69
 
 ある朝、敷きつめられた黄色の並木道は上り坂で、賑やかに下りてくる人々の顔といったら、酷くせわしく時間に追われ、それぞれの世界に憑かれた恐ろしい真顔をしていた。踏みつづけられる銀杏の葉。ふと、「秋扇」という言葉がうかぶ。彼らは駅に向かい、吊革の樹脂の輪をにぎり、あるいは美しい輝きを夥しい数の指紋が消したクローム鍍金の柱に寄り添ってゆれる。
 詰め込まれた彼らの車両はゆれ、揺れて運ばれる会社、学校、諸々の行き先へ。そして息苦しい時間・・・・個体距離などまるで無視した空間のなかで感じあう他人への嫌悪と肉体の素晴らしい感触、不潔な息と匂い。胸や尻のやわらかな接触と乱暴なくらい密着した数秒が、ふたたび押
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