視界が開ける瞬間 ??望月遊馬『海の大公園』について/岡部淳太郎
電車に乗っている。短いトンネルをいくつも潜りぬけていく。トンネルをひとつ通り過ぎる度、窓の外の風景が街中から田舎へと変っていくのがわかる。そして、いくつめかのトンネルを出た時、急に視界が開ける感覚に襲われる。左手から明るい光が射しこんできて、そちらの方に目を向けると、日の光を反射して眩しくきらめく海が広がっている。あるいは、海沿いの街を歩いている。海が近いことは地図などの事前に仕入れた情報でわかるものの、街中の賑わいの中を歩いている時は、そこが海のそばの街であるという実感はない。そこで、海を見ようと思い立ち、ひたすら海の方へと歩いていく。歩を進めるにつれて潮の香りが鼻先をくすぐるようになってくる
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