くちづけ/銀猫
呼んでいる
呼んでいる
濃紺の夜長に虫の音響き
深くこころの闇夜のなかで
銀の鈴をしゃん、と鳴らして
呼んでいる
待っている
待っている
金木犀の匂いが止み
あたりに静けさが熟して
いたずらに時が進まぬ季節を
絡んだ毛糸をほぐしながら
待ち焦がれている
凍える季節に差し伸べられる
人肌温かい手のひらのために
そういう愛情を求むるわたしに
熱を帯びたこころ総てを
明け方の冷気に晒しながら
待っているのは
逢魔が刻の
ひとたびのくちづけ
いまひとたびの
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