桃太郎/若原光彦
のです
そのころおばあさんはまだワニに名前をつけていました
八十二太郎、八十三太郎、八十五太郎、八十六太郎、八十七太郎、
八十八太郎、八十九・米寿の翌年太郎、九十歳太郎、九十一歳太郎、九十二歳太郎
そこまで名づけたところでおばあさんは《しまった》と思いました
おばあさんは雌ワニにも太郎と名づけてしまっていたのです
《あちゃー》しかしおばあさんを責めてはいけません
バラと呼んでいる花を、たとえべつの名前で呼んでも、
香りが変わるわけではないのです
むせ返るワニの臭いにつつまれておばあさんが立ちすくんでいると
《がらがらがらっ》と玄関が開きました
《いま帰ったぞーおばあさああーん
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