祖母を喪ふ/古河 セリ
 
電話のむかうの声は、広島から来た
優しいいたわりに満ちた父の声だつた
祖母がさつき亡くなつたと告げてゐた。

東京の空
広島と同じ東京の空
思へば 貴方は疲れを知らせもしなかつた。

貴方は生きてゐる間中
脈々と支柱から隅々を
了することなく 四季を実らせてゐた。

横隔膜を時にはけいれんさせ
遊ぶ子供らには 十分過ぎるほどの光をしつらえて
それは十億年の星の 結晶のやうだつた。

貴方は活力と善意と笑ひを
生と死の庭にたなびかせ 巨きな椅子となるから
ぼくらはふかぶかと 幸福を沸きたたせたのです。

広島の地で 貴方は遺体と呼ばれる人になつてゐた
ほんとに安らかに、いつもの顔をして 永眠してゐた
さやうなら、また会ひませう、おばあちゃん。

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