廃屋満たす/カンチェルスキス
暗い海に 鏡のビルが倒れる
バラバラの光 二度映しになって
座礁した貨物船に降り注ぐ
叫び声が聞こえないのは
はじめから
人がいなかったから
ただ倒れて 倒れる
ブーツの底ににじむ血で
やっと一人歩ける道をつくった
暗がりの先で 悪夢の匂いが
けむった
錆びた鉄骨 港で起きた殺人事件
助手席の女は
憧れを知らなかった
剥がれた車のボンネットと
いっしょに無心で燃えた
手をひろげると 何も見えなかった
何も手にしてなかった
終わり頃の光が ぷつっと途切れて
何も音がしなくなった
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