弾痕/ゼッケン
彼は
知性と野生の織り成す
一枚のみごとなタペストリーのようだ
ぼくはそう思った
彼の祖父は
満州の将校だったそうだ
日本本国が占領されて戦争が終わったとき
東京で死刑にされるところを
アメリカ人となにかの取り引きをして免れたらしい
おれのじいさんは悪人だったのさ
そう言って皮肉っぽく浮かべた彼の笑みは
自嘲に見せかけた自慢だったと思う
彼は父親のことはしゃべらなかった
母親はきれいだった、元華族の家柄だったと言った
兄弟はいるのかどうか分からない
友人が多かった
なかには子分や用心棒気取りもいた
はたから見ればぼくもそういうひとりなんだろ
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