夕餉の寂寥/松嶋慶子
そらの藍に背中を押されて
家路をたどるころ
夕餉の細い煙が
むんと鼻先に迫る
白い炊きたての匂い に
立ちすくむ
かきむしられるこころ
そして行き着くのは
誰かに会わなくては
という強い思い
屋根が空の闇に融解するころ、だ
その
不思議なまでに私をがんじがらめにする 感覚
スイッチなのだ
夕餉の匂い は
誰かに会わなくてはならない、という
切なく脅迫的なまでの、思い の
いつ
どこで
だれと
私は何ものなのだろう
この感覚は なに
抜け落ちている記憶があるのか
それとも
未来
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