桃の黄昏/石瀬琳々
 
桃の産毛がこそばゆいので
黄昏は早くやって来る


桃の実を齧ると
甘い果汁が口なかに広がって
心をほわんと幸福にしてくれる
この愛らしい実のように
私もすこしは
やわらかくなったかしら


あなたは知っているの?
あなたの目から
かくれんぼしている私を
あなたを大切に思っているのに
いつも反抗してしまうわがままな私を


黄昏が私を包むから
迷子にならないように
あなたの背中を見ているの
晩生(おくて)の桃のように
こうしてじっと頑(かたく)なになり


桃の産毛がこそばゆいので
黄昏は早くやって来る


(お母さん)


あなたを思うのは
今のうち 今のうち


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