みるく/月音
美人薄命 というくらいだから
女の子は 青白い顔をして 少しくらい体が弱いほうがいい
などと思ったのは 十二くらいまでの話で
ただ ひたすらに 丈夫であることは 尊い
そう 思う
なので 風邪をひいた 真夜中の台所で
独りきり 牛乳を 温める
ほんわりとした 額の熱と 茶碗の湯気が混じって
白い 忘却と追憶
みるく味の飴玉は母の味 らしいが
それは 牛の乳のかけらのはずで
赤子の頃 牛の乳房に むしゃぶりついた記憶はないので
それは 誤解のはずなのだが
舌の先にからみつく ねっとりとした膜を弄びながら
母の乳首を思い出せるものかと思案する
本当にからだを養うものはどこにあるのだろう
飽きるほどの豊かさの中でいずれ朽ちる紛れも無い誕生
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牛の乳の白 真夜中の台所で
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