背中を押されて/AKiHiCo
 
握り締めた掌をゆっくり開こう

降り注ぐ月灯りがどこまでも透明で
窓を開ければ秋の風が髪を撫でる
心にいつの間にか出来た傷を
そっと両手で隠しながら
笑顔で貴方を見よう

泣いてはいけない
寂しくなんかないと必死で言い聞かせる
耳を塞いで瞼を閉じて言い聞かせる
悲しくなんかないのだと

泣いてはいけない泣いては――
自分の心に杭を打つ度に溢れてくるのは
あの日のあの瞬間の数え切れない思い出たち

掌で握りつぶせば滲む鮮血
滴り落ちて床に散らばった破片を再び手に取って
見つめればあの日の私たちが逆さまに映る
後戻りをするにはあまりにも遅すぎた
どうしようもな
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