「 踏切にて 」/椎名
 
夜の街を回送電車が走る
まぶしいほどの明かりを点けて
中には誰も乗っていない
中には誰も乗っていない

遮断機の内側を
回送電車が走り抜ける
ごうごうと音をたてて
中には誰も乗っていない
中には誰も乗っていない

あの中に幾人の人生を運んだんだろう
何回この道を往復したのだろう
お疲れ様
もう夜が更ける

遮断機の向こうとあちら側には
家路を急ぐ人々が立ち止まり
見送っている
見送っている
空の電車を

夜の街を回送電車が走る
明日もまた
たくさんの人生を積んで
この線路の上を何度も往復するのだろう

お疲れ様
もう夜が更ける


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