幸福な九月/千月 話子
あなたが優しく息を吸い
ふい と息の根を止めた時
私は とても幸福でした
流れる雲は川面に映り
青い空を魚は流れる
錯覚しておいで
この手の平の陽に
飛ぶ魚よ 飛ぶ鳥のように
あなたが麗らかな日に
そっと 息の根を止めた時
私は とても幸福でした
静かに風の通り抜ける小さな部屋で
踊る少女の足首を見ていた
細く柔らかに上昇する
ピアノの丸い音が
彼女の細い首筋から
螺旋を描くように降りていくので
あなたが瞼を暖かくして
すー と息の根を止めた時
私はとても幸福でした
夕立の少し過ぎた季節の夕立の
やって来た道は ほの
[次のページ]
戻る 編 削 Point(18)