これは詩ではない。/佐々宝砂
(1)
外では血の雨が降っている。誰が死んだわけでもなくて、ただ空が血の雨を降らせている。ねばねばと。あたしはなにがしたいのだろう、あのひとはなにがほしいのだろう、なぜここはこんなにも寒いのだろう。春なのに。
カビくさい書庫の奥にいるあたしの兄は表通りにいちども出ることがないままに腐ってゆく。ふるぼけた白粉をにおわせたあたしの姉は誰からも愛されないまま春先の嵐に飛ばされてゆく。退屈だ、退屈だ、退屈だ、ああ、あたしはいくど退屈だと書けば気が済むのだろう、それは、けして起きないのだろうか? 机の抽出の奥でとぐろを巻くみどりいろの蛇よ、水晶を尖らせろ、それであたしの胸を突け。
書きたい
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