自転車/海月
ら言いたい事があるんだ
時間が来るまでは少しだけ待っていてくれないかい?
「君が好きだよ」と僕は包み隠さずに云えたら
こんなに苦労する事もない筈なのに
夕焼けが沈み街に灯りが灯れば
「帰ろうか」と僕は自分自身に嘘を吐いた
心の言葉と声(くち)にした言葉
一つの蛍が消える頃に君は小さく頷いた
暗闇の下り坂は思いの他にスピードが出ていて怖い
流れて行く長く黒い影の様な木々
手は既にブレーキを強く握り締めていた
「ごめんね」と零した言葉は闇に消えた
涙は擦り切れて君の横を通った事を僕は知らない
「ありがとう」と君の言葉が嬉しかった
「さよなら 君が好きだよ」と君を送り届けた後で
僕は君の家の前で零した事を
最後の最後までは君は知らない
君は知らない
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