森の経験/前田ふむふむ
深くみずをたたえて、湿度を高位にくばり、
森に沈みこむ薄化粧の木霊は、
香ばしい季節の賑わいを、端正に、はおり、
浮かび上がるみどりに浸る、
眩い光沢を、透き通る声の上に配して。
流れる森をゆく、調律された時が、
微熱に燃える季節の頂きの足場を砕く。
鳥の五色の声を浴びて、
秋の涼やかな音を林間のしとねに溶かして、
森は、意味を感傷する歳月を、走るみずに、刻みこむ。
あなたは、ひとたび、
ひらかれた青い暗闇をよこたえる。
昏睡する夏を置き去りにして、
低く牧場のひろがりを一瞥すれば、
頬を赤らめた若いふたりのかさなりが、
澄んだ汗を滲ませて、季節に問う。
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