狗尾草のころ/松嶋慶子
 
空を
見上げようともしない、君の
泣きはらした頬の ぬくもり が
染みる

舌足らずな恋は
時を止めるすべも知らず
いたずらに季節ばかりがすぎて
最後の秋

西日を受けた
一面の狗尾草(えのころぐさ)は
君をなぐさめながら
風を待っていた

君はうなだれながら
その柔らかな輪郭を
上目遣いに
見つめ続けるだけで

いつか君は
思い出すのだろう
高く遠い空に
狗尾草(えのころぐさ)の金色の風の匂いを
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