久しぶりに微笑んだ/千波 一也
 

のら犬がいた

そいつは
安全な距離を保ちながら
一生懸命に
オレを吠えた

かるく
しっぽが揺れていた
もとは白かっただろうに
よごれた茶色が寂しかった


砂利道にしゃがんでみたら
そいつは少し警戒をした
どんな目に遭ってきたのだろう
しっぽを揺らしながら
吠える声色が
少しばかり確かになった

ふと思い立って
買ったばかりのパンを取り出した
今夜の貴重な食料なのだが
まぁいいか、と袋を開けた

のら犬が首をかしげたような気がしたから
かるく
パンを放り投げた

ゆっくりとそいつは寄ってきた

嘘くさい茶色を
リアルな茶色が
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